この記事で扱うこと — 入稿NG記事(A-02)との違い
この記事は、届いたTシャツを手に取って「思っていた色と違う気がする」と感じた人、あるいは発注前に「色ブレが不安」と悩んでいる人に向けて書いています。
同じ失敗ルポでも、入稿データのNG3大パターン(以下 A-02)は 技術的に印刷に乗らない入稿 の話でした。
一方この記事は、入稿データ自体には問題がなくても、仕上がりの色が発注者の想像とズレる現象 を扱います。CMYK 変換や解像度のような技術チェックを全部クリアしても、色再現は別の層で問題が起きます。両者は読み分けてください。
届いたTシャツと想像のズレ — ある新歓40枚の案件
都内の私立大学サークル(新歓担当が幹事)の案件として匿名化したものです。色ブレが起きる現場を時系列で追います。
相談開始時 — 「くすみピンクで」
4月の新歓用に40枚のロゴTシャツ。幹事は Canva でデザイン作成済みで、LINE にスクショを送付。指定は「くすみピンク」(くすんだローズ寄りの色)で、見本として Pinterest の参考画像も添えられていました。
preTTy 側は「Canva の表示は sRGB(モニター色空間)なので、印刷で色味が多少シフトします。気になるようなら発注前に色番号(DIC/PANTONE)指定か、試作1枚をおすすめします」と回答。
発注者は「大丈夫です、だいたいこのくらいの色であれば」と返答。ここで 「だいたい」の許容範囲を具体化しないまま 次工程に進みました。
デザイン確定〜発注
枚数40・白Tシャツ(綿5.6oz)・前面プリント。印刷方式は preTTy 側で DTF を提案(40枚規模ならシルクスクリーンより版代ぶん安い)。発注者は承認して入稿完了。
この段階では入稿データの技術チェックは全パス — CMYK 変換済み、実寸300dpi、フォントアウトライン化、淡色もK20%以上。A-02 的な観点では問題なし でした。
受取、そして LINE に「色が違う気がする」
納品後、幹事からLINEに「届いたTシャツ、なんか想像よりはっきりしたピンクで…室内で見る分にはOKなんですが、屋外の新歓ブースで着てみたら違和感があって」という連絡。
送られてきた写真を見ると、指定のくすみピンクより 彩度がワンランク上がった、サーモンピンク寄り の色に仕上がっていました。技術的には正しいのに、発注者の期待値とは違う — 典型的な色ブレ事故です。
どの段階で認識がズレたか — 5つの分岐点
この案件を復盤すると、認識のズレは1箇所で起きたのではなく、5つの工程で少しずつ累積していました。どれも単独では小さなズレでも、重なると「明らかに違う色」になります。
分岐1: モニターの色域と印刷インクの色域
Canva の画面は sRGB(モニター向けの色空間)で、印刷は CMYK(インクの色空間)。くすみピンクのような「彩度が低めでグレーを含む色」は、CMYK の再現域の境界にあり、変換すると微妙に彩度が上がる傾向があります。
発注者は CMYK 変換したデータで入稿しており技術的には正しいのですが、変換後の色を目視で発注者と擦り合わせていなかった のが最初の小さなズレです。
分岐2: 印刷方式の発色特性
DTF・シルクスクリーン・インクジェットは同じデータを使っても発色が違います。
- DTF: 水性インクで鮮やか寄り。くすみ系は彩度がわずかに上がる
- シルクスクリーン: 調色(インクを混ぜて色を作る工程)があるため、色番号指定との一致度が最も高い
- インクジェット: DTF とシルクスクリーンの中間。中間色は比較的忠実
今回の DTF は枚数40に対して最安だったのですが、「くすみ系で彩度を上げたくない」意図があれば、シルクスクリーンを選ぶべき案件 でした。ここは方式選択の判断材料が発注者に十分届いていなかった、preTTy 側の反省点でもあります。
分岐3: 生地色の下地影響
今回は白Tシャツだったため下地の影響は最小でしたが、もし 生地色がオフホワイトやアイボリーだったら、淡色のピンクは生地色が透けて見え、全く違う色に見えたはずです。
白系の生地でも「ブリーチ白」と「ナチュラル白」では発色が違うため、これは「発注時に確認漏れしやすい項目」のひとつです。
分岐4: 調色ロット差(今回は微差だが原理は押さえる)
シルクスクリーンで同じ色を複数回発注すると、ロット間で微妙に色が違うことがあります(インクを手作業で混ぜるため)。DTF は機械調整なのでロット差は小さめですが、ゼロではありません。
今回は1回発注・1ロットだったのでこの要因は小さかったのですが、後日追加発注したときに色が合わない という問題につながる可能性があります。追加発注前提なら、この点も発注前に共有しておくべきでした。
分岐5: 観察環境(室内と屋外で色は違って見える)
幹事が「室内で見る分にはOKだが屋外で違和感」と感じたのは、色温度の違い です。
- 白色LED(室内): 約5,000K
- 太陽光(屋外・日中): 約6,500K
- 蛍光灯(昼白色): 約4,200K
同じインクでも照明光が違うと反射スペクトルが変わって色が違って見えます(メタメリズム現象)。新歓ブースのように 着用シーンが屋外 なら、色の確認も屋外で行うのが正解です。
色ブレが起きやすい条件
上の5つの分岐点から、色ブレのリスクが上がる条件が見えてきます。次のどれかに該当する案件は、事前にひと手間かける価値があります。
- 色番号(PANTONE/DIC)を指定していない。「くすみ系」「ベージュっぽい」など感覚語で指定している
- 印刷方式の発色特性を知らずに業者任せ。方式は単なる価格差でなく発色差でもある
- 生地色が白以外(オフホワイト / アイボリー / カラー生地)
- 試作(先行1枚)を出さずに本番発注
- 着用シーンの照明環境と色確認時の照明環境が違う(室内で確認→屋外で着用 等)
- 同じ色で追加発注の可能性がある(ロット差リスク)
発注前に擦り合わせるべき5つのこと
「感覚的な色指定 → 感覚的な承認」の連鎖が色ブレの一番の原因です。発注前に次の5項目を文字・数字で擦り合わせておくと、期待値ズレの多くを防げます。
- 色番号の指定: DIC か PANTONE で番号指定。Canva で作る場合でも、指定したい色の番号を別途伝える
- ベース生地色: 白 / オフホワイト / アイボリー / カラーのどれか、型番レベルで特定する
- 印刷方式と発色特性: DTF / シルクスクリーン / インクジェット のどれを選ぶか、発色差を踏まえて決める(印刷方法比較)
- 試作(先行1枚)の要否: 色が重要な案件(ブランド・サークル象徴色)なら試作推奨
- 「どのくらい近ければOK」の許容範囲: 「完全一致」か「同系色でOK」か「近ければOK」か、3段階のどれかで合意
再発防止チェック — 次に似た案件を受けたら
発注者側・業者側の双方でチェックしたいポイントを整理します。コピペしてそのまま社内や幹事グループで共有できるフォーマットにしてあります。
- □ 色を「感覚語(くすみ/ベージュっぽい)」ではなく「番号(DIC/PANTONE)」で指定した
- □ 印刷方式の発色特性を発注者が把握している(業者任せにしていない)
- □ ベース生地の色を型番レベルで指定した
- □ 試作を出すか出さないかを意思決定した
- □ 色が合っている許容範囲(完全一致/同系色/近ければOK)を合意した
- □ 着用シーンの照明環境で色を確認した(室内/屋外/蛍光灯)
- □ 追加発注の可能性があるなら、その旨と「色差が出るリスク」を共有した
どこまで自分で判断し、どこから相談すべきか
自分で決められること
- 色の意図(鮮やか/くすみ/淡い、どのトーンにしたいか)
- ベース生地色
- 予算と枚数
- 納期とイベント日
- 着用シーン(屋内/屋外/夜)
相談すべきこと
- 色番号 → 実インク色への変換: 指定した色番号が DTF/シルクで実際にどう出るか
- 印刷方式の変更提案: 選んだ方式が意図に合わない場合の別提案
- 試作の要否判断: この案件なら試作を出すべきか、本番一発でよいか
- 期待値の擦り合わせ: 「このくらいの色感で仕上がります」の事前共有
- 追加発注時の色差リスク: ロット間差をどう管理するか
色については 「自分で決める」より「業者と合意を取る」 比重を高めるのが、仕上がり満足度を上げる近道です。とくに初回発注時は、自己判断だけで進めると今回のようなズレが起きがちです。
迷ったら — 相談導線
届いてしまった後でも、発注前でも、色について不安があれば最初にLINEで相談するのが一番早いです。イメージ画像やスクショを送ってもらえれば、preTTy 側で「どの印刷方式ならそのイメージに近いか」を提案します。
- LINEで色味を相談 — イメージ画像 + 枚数 + 納期 を送れば最適方式を提案します
- 印刷方法比較 — 発色特性の違いを先に知りたい方向け
- デザインテンプレート — 色番号指定済みのテンプレから選ぶ
- 入稿データの作り方ガイド — CMYK 変換や色指定の基本
色ブレは「技術的には正しいのに期待と違う」という独特の難しさがあります。発注前に文字と数字で色を擦り合わせる — これ1点を徹底するだけで、多くの色ブレ事故は事前に避けられます。