この記事で扱うこと — 既存ガイドとの差分
この記事は、すでに手元に入稿候補のデータがあって判断に迷っている人、あるいは「このままだと印刷できません」と返送された直後の人に向けて書いています。
一般的な入稿ガイドが「これから正しく作る方法」を扱うのに対し、ここでは 「どんな入稿がなぜ印刷に乗らないのか、どう直せばよいか」 にだけ絞ります。作り方そのものは 入稿データの作り方ガイド に譲るので、両者を読み分けてください。
現場でよく起きる3つの入稿NG
preTTy に届くデータのうち、事前確認で差し戻しになる多くはこの3パターンに集約されます。それぞれ「どんな症状か → なぜ印刷に乗らないか → 受け手側で起きる困りごと → 直し方」の順で見ていきます。
NG1: RGB データがそのまま送られてきた
現場で起きる典型例: 「送ったデザインの青が、画面で見ていた鮮やかな空色ではなく、沈んだ紫で刷り上がってしまった」。
- 症状: 鮮やかな青 → 沈んだ紫、発色の強い赤 → 茶色みを帯びた赤
- なぜ印刷に乗らないか: モニターは光の三原色(RGB)で発色、印刷は物質(CMYK)で発色するため、モニター上の色のうちインクで再現できない領域があります。とくに蛍光に近い色・ネオン系は CMYK 変換で確実に沈みます
- 受け手側で起きる困りごと: そのまま印刷すると発注者と色感が食い違い、かといって勝手に CMYK 変換すると意図と違う色を出すリスクがあるため、preTTy では必ず発注者に再確認します。これで 納期が1〜3営業日伸びる のが最もよくある損失です
- 直し方(3段階):
- Illustrator/Photoshop で「ファイル > ドキュメントのカラーモード > CMYKカラー」に変換して 変換後の色を目視で確認
- 鮮やかな青や赤など飛びやすい色は、印刷用カラーチャートで番号指定する(DIC / PANTONE / プロセスカラー)
- それが難しければ、元データを LINEでデザイン相談 に送ると変換後シミュレーションを共有します
NG2: 実寸 300dpi 未満のラスター画像
現場で起きる典型例: 「SNSで保存したイラストをそのまま入稿したら、Tシャツに載せた文字の輪郭がギザギザになった」。
- 症状: 文字・輪郭のぼやけ、ジャギー(階段状のギザギザ)、写真のブロックノイズ
- 判定基準: 実寸 300dpi 以上 が目安。前面 20×20cm で版を作るなら、元画像は 約 2,400 × 2,400 px 以上 ほしい
- なぜ印刷に乗らないか: プリント版は元データの解像度に引きずられます。SNS掲載用の画像は 72〜144 dpi で、実寸に拡大すると情報が足りず輪郭が崩れます
- 受け手側で起きる困りごと: そのまま印刷すると仕上がりが必ず低品質になります。preTTy では「このまま進めると低品質になります」と事前にお知らせし、再入稿かベクター化をお願いしますが、この やり取りだけで半日〜1日 かかります
- 直し方:
- 元データ(PSD/AI/Canva 編集ファイル)があればそれを送り直す
- 手元に元データがなければ、Canva でゼロから作り直す方が早いことが多い(デザインテンプレート をベースにすると数十分で原寸版が用意できます)
- ロゴはベクター(AI/SVG)化が最優先。文字単体のロゴなら再タイピング + アウトライン化で元よりきれいに作り直せます
NG3: 淡色・薄墨が印刷の網点下限を下回っている
現場で起きる典型例: 「淡いグレーで描いた水彩風のロゴが、シルクスクリーンの版でかすれてまだらに出た」。
- 症状: 淡色部分がまだらに出る、あるいは完全に抜ける
- 判定基準: シルクスクリーンの網点下限はおよそ 5〜10%(業者・メッシュ数により差あり)。K10% 以下のグレーは安定しません
- なぜ印刷に乗らないか: シルクスクリーンは版の穴を通してインクを落とす方式で、薄すぎると版がその点を拾えません。DTF / インクジェット / 昇華転写なら連続階調で再現できます
- 受け手側で起きる困りごと: 「試し刷り」工程のある業者でしか発見できず、試し刷りを省略する激安プランでは淡色部分だけ消えた状態で納品されるリスクがあります
- 直し方(優先順):
- デザインの本質が淡色でない → K20% 以上に濃度を上げる(最速・追加コストなし)
- 淡色表現が重要 → シルクスクリーンをやめて DTF か インクジェットへ切替(印刷方法比較 を参照)
- 淡色の階調が主役 → 版数を増やして中間色を作る(コスト増、200枚以下なら DTF の方が安いことが多い)
3ケースに共通する根本原因
3つのNGに共通するのは 「モニター(画面)で見える = 印刷できる」という前提の誤り です。
- モニターは光で発色、印刷は物質で発色(色の話 = NG1)
- WEB配信用サイズと印刷原寸サイズは別物(解像度の話 = NG2)
- 連続階調と版の網点下限は別物(表現域の話 = NG3)
いずれも画面上は問題なく見えるため、本人は気づけません。結果として返送になる、という構造になっています。「モニター上で合格 = 印刷でもOK」ではない と知っておくだけで、3ケースの多くは依頼前に避けられます。
受け手側(印刷現場)で実際に起きる困りごと
入稿NGは単に「直してもらう」で済まず、次の連鎖コストを発生させます。依頼側が意識していないポイントとして共有します。
- 確認コストの増加: 1案件あたり通常はデータ確認 5〜10分。NG入稿が絡むと説明・再入稿・再確認で 30分〜数時間
- 納期のずれ込み: 再入稿1回で 0.5〜1営業日、色見本送付が必要なら +1日。文化祭・卒業式のように日付が固定のイベントでは致命傷になります
- 責任の所在の曖昧化: 「送ったデータの通り刷った」vs「この品質になると事前に伝えるべき」で認識が食い違うことがあります。preTTy は事前の低品質予告を徹底していますが、予告のためのやり取り時間そのものが納期を圧迫します
依頼前に自分で確認できる5項目
手元のデータについて、次の5つを順に自己チェックしてください。どれか1つでも自信がなければ、直さずに相談に送って大丈夫です。
- □ カラーモードは CMYK になっているか(RGBのまま送らない)
- □ 原寸サイズで 300dpi 以上あるか(SNS保存画像は大半が未達)
- □ 文字はアウトライン化されているか(フォント置換を防ぐ)
- □ 最も淡い色は K20% 以上あるか(シルクスクリーンを想定する場合)
- □ 画像は埋め込み済みか(リンク切れの状態で送らない)
CMYK 変換や解像度判定が難しければ、そのまま LINEでデザイン相談 に送ってもらえれば preTTy 側で事前診断します。
修正の優先順位
まず直すべきこと(印刷品質への影響が大きい)
- カラーモード(RGB→CMYK) — 色感の根本が変わるため最優先
- 解像度(300dpi未満) — 仕上がりに直結、後から取り戻せない
- フォントのアウトライン化 — 入稿先の環境によるフォント置換を防ぐ
後回しで進めていい調整
- 背景の最終白黒(プリント範囲外なら影響は軽微)
- トンボの精密位置(テンプレートに収まっていれば十分)
- 画像のトリミング微調整(印刷サイズで埋もれる差)
迷ったときは 「印刷するインクの話に直結する項目を先に」「見た目の整えは後回し」 で判断できます。
そのまま相談してよいケース
データが不完全でも、preTTy では以下の場合は 直さずそのまま送ってもらって大丈夫 です。相談コストはかかりません。
- 手書きスケッチ・写真しかない(トレース対応)
- Canva の編集ファイルしか手元にない(共有リンクで受け取り可能)
- 色の意図だけ決まっている(色見本指定で擦り合わせ)
- 初めて作るので、どう直せばよいか分からない(スクショ送付でOK)
- ロゴはあるが素材が低解像度(preTTy 側でベクター再現を検討)
先に直した方がよいケース
一方、次のケースは相談より先に本人側で判断してもらうほうが、やり取り回数を1〜2往復減らせます。
- 著作権・商標が疑わしい素材(キャラクター・他社ロゴ流用)— preTTy では印刷を受けられないので、代替案を用意してから相談
- 明らかなデータ破損(開けない .ai ファイル、壊れた .psd)— 先に元データから再書き出し
- テイストが未決(A案と B案で迷っている状態)— 先にどちらか決めてから入稿。preTTy は「どちらが良いか」の審美判断は行いません
迷ったら — まず相談導線から
データが手元にあって直し方が分からない場合は、データを直さずに送って大丈夫 です。印刷方式を変えれば解決する場合もあるので、自己判断で作り直すより相談が早いことが多いです。
- LINEでデザイン相談 — スクショ or ファイルを送れば preTTy が事前診断します
- 入稿データの作り方ガイド — これから作る人向けの基本
- デザインテンプレート — ゼロから作り直すならここから
- 印刷方法比較 — 淡色再現でシルクスクリーンをやめる判断が必要なとき
一番大事なのは 「モニター上で合格 = 印刷OKではない」 と知ることです。この1点を押さえておけば、入稿NGの多くは事前に避けられます。